多様なニーズに応える通話環境を提供 Twilioで実現する、聞こえにかかわらず利用できる電話サービス
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電話は、きこえる人だけが使うコミュニケーションツールだと思い込んではいませんか?確かに音声を使い電話を利用する人が多いのは事実ですが、手話や文字を組み合わせることで、「きこえない人」や「きこえにくいことがある人」等も電話をスムーズに利用できるようになりました。また、それは「きこえる人」にとっても通話相手が増え、電話の世界を広げることにつながります。本記事では、Twilioを活用したバリアフリーな電話サービスの実現方法を探ります。
多くの人を「電話」でつなぐ、公共インフラとしてのサービス
『電話リレーサービス』は、聴覚や発話に困難のある人(以下、きこえない人)と、きこえる人(聴覚障害者等以外の人)との会話を通訳オペレータが「手話」または「文字」と「音声」を通訳することにより、電話で即時双方向につながることができる、法律に基づいた公共インフラとしてのサービスです。2025年には、電話で相手先の声が聞こえにくいことがある人(以下、きこえにくい人)を対象としたサービス『ヨメテル』の提供も開始。ヨメテルは、通話相手の声をリアルタイムで文字にし、自分の声で発話しながら電話をするサービスです。これにより、より多様なニーズに対応した通話環境が整備されました。
電話リレーサービスとヨメテル開発の経緯について、一般財団法人日本財団電話リレーサービス システム管理開発チームの下原賢昭氏、広報チームの上村麻子氏に伺いました。
下原氏「電話リレーサービスは英語で『TRS(テレコミュニケーションズリレーサービス)』と呼ばれており、きこえない人が通訳オペレータを介して電話を使用できるサービスの総称です。その中でも手話を使用するサービスは『VRS(ビデオリレーサービス)』と呼ばれ、アメリカをはじめ、ヨーロッパ各国、タイ、オーストラリアなどでも広く普及しています。一方、ヨメテルに相当するサービスは『IP-CTS(インターネットプロトコル キャプションドテレフォンサービス/文字表示電話サービス)』と呼ばれ、アメリカでは8社が提供。アナログ時代から続く歴史のあるサービスで、現在はデジタル化が進んでいます」
上村氏「日本ではこういったサービスの導入が遅れていましたが、2020年に『聴覚障害者による電話の利用の円滑化に関する法律』が制定され、2021年7月より、電話リレーサービスが公共インフラとして24時間365日利用可能になりました」
『ナビダイヤル対応』と『ワンナンバー化』が導入の決め手に
聞こえの程度にかかわらず、電話を利用できる世界を実現する電話リレーサービスとヨメテル。この画期的なサービスの中でどのようにTwilio製品が使われているのか、下原氏に伺いました。
下原氏「電話リレーサービスとヨメテル、それぞれでTwilioのProgrammable Voiceを導入しています。電話リレーサービスでは、通訳オペレータが利用者と通話相手の間に入り、手話・文字と音声を通訳することで、電話でのコミュニケーションを実現します。利用者と通訳オペレータの間はビデオ通話を使用しており、ここではTwilioを使っていませんが、通訳オペレータと通話相手のやり取りにはTwilioのVoice APIを活用しています。当時の開発担当者曰く、同サービスを開発していた2017年頃、Twilio以外に利用できる同等のサービスはほとんどなかったそうです。
一方、ヨメテルでは、通話のすべてにTwilioを利用しています。利用者と通話相手の音声のやり取りを含め、サービスの基盤ともいえる部分にVoice APIを組み込むことで、安定した通話環境を実現しています。ヨメテルでのTwilio選定の理由としては、大きく2つ挙げられます。
1. 0570(ナビダイヤル)への発信が可能
利用者の利便性向上という点で、ナビダイヤルへの発信を検討していました。これはヨメテルの開発におけるAPI選定条件のひとつでしたが、IP電話ではナビダイヤルに発信できないケースがほとんどです。そんな中、Twilioが私たちの要望に応え発信可能な仕組みを整えてくれたことで、ナビダイヤルの利用が可能になりました。ヨメテルは2025年1月のサービス提供開始よりナビダイヤルに対応し、多くの利用者に喜んでいただいています。
2. ワンナンバー化の実現
電話リレーサービスでは050から始まるIP電話番号を使う必要があり、利用者は個人の携帯電話番号(090等)と合わせて2つの番号を持つことになります。これらに加えてヨメテルも使用する場合は、さらに新しい050番号が付与され、合計3つの番号を持つことになります。そのため、検討段階から、電話リレーサービスとヨメテルで同じ050番号を利用できるようにしたいと考えていました。同じIP電話サービスのTwilioを採用することで、異なるサービスでも同じ050番号から発信できることは分かっていましたが、問題は通話相手からの着信を利用者側でどのように設定するかという点です。この課題についてTwilioの技術チームに相談したところ、Webhookを活用することで、保有している1つの050番号を使って着信させたいサービスを切り替えられる仕組みを実装できることがわかりました。利用者がアプリ上でスイッチのように着信設定を切り替えるだけで、自分宛てにかかってきた着信を電話リレーサービスで受けるか、ヨメテルで受けるかを自由に選択できます。この柔軟な運用が可能になったことで、Twilioの技術が最適だと確信しました。
また、TwilioはAPIでさまざまな機能を連携できるCPaaSであり、開発のしやすさも魅力に感じています。必要な機能を適材適所に実装できるため、比較的短期間で開発が進みました」
新たなつながりを生み出し、世界を広げるツールへ
サービスの現状と今後の展望について、おふたりに伺いました。
上村氏「2024年に行った調査※では、電話リレーサービスの個人利用者の75.4%、法人利用者の60%以上がサービスに満足していると回答しています。また、『急ぎの用事も自分で対応できるようになった』『周囲に頼らず業務を遂行できるようになった』と感じる人が8割を超え、生活の利便性向上、自立や積極性の向上、コミュニケーションの深化、生活上の安心感の増大など、多くのポジティブな変化が報告されています。
※電話リレーサービスよかったこと調査 https://www.nftrs.or.jp/news/fy2024/pr20241016
ヨメテルに関してはまだリリース間もないため具体的に多くの変化を把握できていませんが、たとえば生活の中で聞こえにくさを感じる人は10人に1人いると言われていますし、また、聞こえているのに聞き取れないという悩みを抱える、APD(聴覚情報処理障害)やLiD(聞き取り困難症)も少なくありません。こうした人たちにとっても、ヨメテルは音声電話を使用する際に感じる負担を軽減できるサービスになると考えています」
下原氏「これらのサービスは『きこえない人やきこえにくい人のためのサービス』と思われがちですが、実際には通話の数だけ、通話相手も存在しています。つまり、双方にニーズがあるのです。
企業や店舗などでは、きこえない人やきこえにくい人への対応が難しいと感じることがあるかもしれません。しかし、そうした場所できこえる人の側から電話リレーサービスを活用すれば、大きなメリットが生まれます。もしかすると、『きこえない人・きこえにくい人は電話が難しい』という思い込みのもとに、コミュニケーションの幅を制限しているのかもしれません。このサービスは一方のための便利なツールではなく、電話の世界を広げるための手段です。多くの人に新たなつながりを生み出し、より活発なコミュニケーションの機会を提供するものだと知っていただきたいですね」
上村氏「私たちの使命は、公共インフラとしてサービスを提供し続けることにあります。24時間365日、途切れることなく安定的に利用できる環境を維持することが重要であり、そのためにTwilioの製品は欠かせません。『誰一人取り残さない』という視点から、これからもサービスの提供を継続的に行っていきます」