コロナ禍で課題となったヘルプデスクのテレワーク化
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クラウドCTI「Twilio Flex」によって、ヘルプデスク業務をテレワーク化。現行運用を維持しつつ、従業員の負担を軽減。
医師と薬剤師が、それぞれの専門知識を生かして、質の高い医療を提供していく「医薬分業」は、日本の医療制度に不可欠な仕組みとして普及してきた。日本調剤株式会社(以下、日本調剤)は、真の医薬分業の実現を目指し、全国に約700店舗の調剤薬局を展開している。同社では、クラウドCTIである「Twilio Flex」を用いて、これらの調剤薬局に対するヘルプデスク業務を、検討開始から約4カ月という短期間でテレワーク化した。これにより、従業員の負担軽減と業務効率の向上を実現している。
コロナ禍で課題となったヘルプデスクのテレワーク化
日本調剤では、日本の全都道府県に668店舗(2020年11月現在)の調剤薬局を展開している。これらの店舗で使われている、薬局運営に関わる業務アプリケーションの多くは、自社開発のものを利用している。これは、薬局経営の中核となる業務ノウハウが詰まったシステムを、自社の強みとして社内に保持したいという方針によるものだという。同社のシステム第1部では、この薬局向けのコンピュータシステム全般の運用を担当している。システムの納入、セッティングから、アプリケーションの利用法、システム不調についての問い合わせ対応といったヘルプデスク業務もその一部だ。ヘルプデスクは、東京都千代田区の本社内に設置され、全国の薬局からシステムに関する問い合わせを、5名の担当者がシフト制で対応している。問い合わせ件数は、月間で1,000件以上におよぶという。2020年春、このヘルプデスクの業務体制を大きく変えなければならない事態が起きた。世界中で爆発的に感染が拡大した新型コロナウイルスの影響だ。4月以降、日本政府による緊急事態宣言が発令され、不要不急の外出を自粛すること、公共交通機関を用いた通勤を避けることが全国民に強く要請された。日本調剤においては、以前から紙書類の電子化、RPAによる業務の省力化といった形で、全社規模での業務のデジタル化を進めていた。コロナ禍を大きなきっかけとして、主に間接部門を対象としたテレワークも加速し、間接部門については「オフィスへの出社率を3割未満に抑える」という目標も、早い段階で達成できると見込まれた。しかし、ヘルプデスク業務に関しては、テレワーク化にあたっての大きな課題があった。ヘルプデスクには全国統一で1つの電話番号が設定されており、社内に構築されたビジネスフォンで、担当者が問い合わせを受けていた。業務を行うためには、電話が着信するオフィスに、担当者が出勤しなければならなかったのだ。日本調剤システム第1部の係長として、ヘルプデスク業務のテレワーク化に取り組んだ侭田光広氏は「調剤薬局は、地域医療の最前線として、患者さまの命と健康を守る役割を担っており、コロナ禍においても業務を滞らせることはできません。その現場をサポートするヘルプデスクについても、これまでと同様に業務を行いつつ、早急にテレワーク化する方法を探っていく必要がありました」と、当時の状況を振り返る。また、実際に業務を行う担当者にもTwilio Flexのクライアント画面を試用してもらい、意見を聞きながら運用方法を検討したという。同社では、セミナー受講後の4月下旬よりTwilio Flexの導入に向けた要件の整理とデモ環境による評価を開始。7月には正式な契約を行って現場を交えたトライアルをスタートした。テレワークでのヘルプデスク業務を本格的にスタートしたのは8月11日であり、検討から実質4カ月ほどで実現したことになる。導入にあたっては、ITへの理解が厚い経営陣のサポートもあり、稟議承認もスピーディーに行われたという。システム第1部の茅原由依氏は、本格導入に先がけて、トライアルに参加したヘルプデスク担当者のひとりだ。「トライアルの段階で不安だったのは、PCで受けた問い合わせを、他の担当者にスムーズに転送できるのか、その担当者が他の問い合わせを受けている状態かどうかをすぐに知ることができるのか、といったことでした。機能的には問題はなく、トライアル期間中に社内で使い方を覚えて、8月以降には、本格的にテレワークでの業務をスタートすることができました」(茅原氏)
テラスカイが5営業日で 在宅コールセンターを立ち上げた事例を参考に「Twilio Flex」を選択
侭田氏は、日本で新型コロナウイルスの感染拡大が懸念され始めた2020年3月ごろから、ヘルプデスクのテレワーク化について本格的に情報収集を行った。その中で、テラスカイとTwilioの共同開催によるWebセミナー「在宅コールセンター短期構築実践セミナー」を受講したという。「テラスカイが在宅コールセンターを5営業日で立ち上げたという内容と、実際にどのように運用が行われているのかという部分に興味があ
りました。セミナー後には、実際にTwilio Flexを触れるデモ環境を提供してもらい、当社のヘルプデスクに使えそうかどうか、検討を進めました」(侭田氏)日本調剤では、Twilio Flexの評価にあたり、以下の項目などを主な要件として検討を行った。現在は、従来どおりのヘルプデスク番号にかかってきた問い合わせが、一度Twilio Flexへ転送され、テレワークを行っている担当者が、それぞれの場所でPCを使って受けられる環境が構築されている。発信番号は変わらないため、今回のシステム変更にあたって、薬局側で一斉に設定変更などを行う必要はなかった。ただし、ヘルプデスク側からの折り返しは、基本的にTwilioで新たに取得した電話番号からの発信になるため、その旨は事前にアナウンスし、発信者番号による着信設定を行っているようなケースに注意を促したという。現場での運用開始後、同社ではTwilio Flexの機能を、一部カスタマイズしている。既存の電話帳データと連携し、着信時には発信元の薬局名がポップアップ表示されるようにしたという。また、テレワーク時の担当者間のコミュニケーションに、新たにビジネスチャットツールを導入した。「テレワークでは、担当者が同じ場所にいれば気軽にできる問い合わせが難しくなります。ちょっとした連絡については、メールではなくチャット形式のツールを使うことで、問い合わせの手間を減らし、コミュニケーションの敷居を下げています」(侭田氏)その他の部分については、特に大きく手を入れたり、新規のサービスを導入したりする必要はなかったそうだ。Twilio導入に必要なテラスカイとのやりとりも、基本的にリモートで行われた。「テラスカイとは、主にメールや電話、クラウドのプロジェクト管理ツールを使用して、導入とカスタマイズの作業を進めていきました。事前にデモ環境を使って評価できたこともあり、本格運用に至るまでに、技術面での大きな問題はなかったですね。ただ、Twilio Flexの契約にあたって会社代表者の身分証写しが必要です。簡単なことではないので、担当者は知っておくべきですね」(侭田氏)
テレワークによって担当者のストレスが軽減、業務効率向上に好影響
同社では、2020年11月現在も、Twilio Flexによるテレワークでのヘルプデスクを継続している。担当者は、PCクライアントによる業務にも習熟してきており、テレワークによるメリットを強く感じているという。システム第1部主任の左田野早知氏は「新型コロナウイルスの感染拡大以降、会社に出社し、閉じた執務スペースの中で行わなければならないヘルプデスク業務には、担当者が強いストレスを感じていました。テレワークが可能になったことで、感染リスクが軽減され、電車による通勤、オフィスでの業務にまつわるストレスが解消されたことは、何よりも大きなメリットだと感じています」と話す。テレワークを継続する中で「担当者の自宅のネットワーク状況によって、まれに業務環境が不安定になる」といった問題も経験したそうだが、今後のテレワーク継続も視野に入れながら、改善方法を検討していきたいという。また、「電話での問い合わせをPCで受ける」という業務環境の変化は、作業効率の向上にも寄与しているという。従来は、ビジネスフォンの受話器で問い合わせを聞きながら、PCでシステムにアクセスし、問い合わせ元とのやり取りの履歴や、返答に必要な情報などを参照していた。その時のやり取りについては、手書きのメモなどで記録しておき、対応完了後に改めてシステムへ入力するケースも多かったという。「Twilio Flexの導入後は、電話応対と情報参照を、いずれもPC上で行えるようになりました。ハンズフリーで問い合わせに対応しつつ、その内容を直接、システムに入力することも可能なケースが増えています。対応履歴のシステム入力にかかる時間は、1カ月あたり数時間、削減できている実感があります」(茅原氏)
電話問い合わせ実数 30%減をさらに加速し、 独自の文化やニーズを理解した 発展的な提案に期待
今回のテレワーク化とは別に、日本調剤では2019年以降、ヘルプデスクの業務改善を本格的に推進してきた。Webで提供するFAQや資料の改善、チャットボットを活用した問い合わせ対応の導入などを通じて、電話による問い合わせの実数については、2018年度と比較して、1店舗あたり30%近く削減されたという実績があるという。今回、Twilio Flexを導入したことにより、ヘルプデスクでの電話対応回数、時間などは、システム上にログデータとして記録されるようになった。これらのデータは、実績の集計や業務改善の効果測定などにも活用することが可能だ。同社では今後、Twilio Flexと、他システムとの連携も視野に入れているという。「現状では、ヘルプデスクの通話システムと顧客管理システムが、直接連携しているわけではありません。顧客管理にはSalesforce CRMを利用していますが、両者を連携させることで、履歴や事例の検索も容易になり、ヘルプデスクの品質や効率の向上に寄与するだろうと考えています」(侭田氏)今回、Twilio Flexの導入を支援したテラスカイは、Salesforceソリューションの導入支援においても多くの実績を持つ。同社では、両ソリューションの連携を含む今後の展開においてもテラスカイとのパートナーシップに強く期待していると言う。「Twilio Flexによるヘルプデスクのテレワーク化事例は、社内でも関心を持って見られており、すでに他部署からも、いくつか問い合わせが来ています。テラスカイには、引き続き、当社の社内文化や独自のニーズを伝え、理解してもらった上で、業務の改善やサービス品質の向上につながるようなソリューションを、積極的に提案してもらえることを期待しています」(侭田氏)