RPA×TwilioのAPIで ロジスティクスDXを実現! 顧客満足度アップとコスト削減を両立
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電話連絡に替わるチャネルとして到達率の高いSMS通知に着目
ビックカメラではグループ全体でのDXを見据え、2022年1月から「デジタル戦略部」が発足しました。同年6月には「DX宣言」を発表し、システム開発の内製化を決断。事業サイドからの下請け的な開発だけではなく、事業・お客様に併走し改善提案も行う戦略組織への転換を推し進めています。この改革の中で重視しているのは、早期に小さな成果を積み上げていく「Quick Win」。そのひとつの例が、今回ご紹介するエアコン訪問予定時間のSMS配信です。まずこの開発がどのようにスタートしたのか、デジタル戦略部ビジネスソリューション室カスタマーコミュニケーションユニット 田村 久志氏に伺いました。
「私たちは大前提として小売業であり、お客様へのサービス改善を常に目指しています。しかし事業運営上コストを削減することも必要で、その両立が求められています。今回の開発は後者が発端となっており、エアコン設置の訪問時間に関するコールセンターへの問合せを減らすという目的がありました。
エアコンは商材の特性としてイレギュラー作業の発生がありうるため、業界の常識として日付指定はできても宅配便のように時間指定はできません。従来訪問予定時間のご連絡は、エアコン設置を請け負う工事パートナーから、設置当日の朝お客様に電話で行っていました。しかし朝8~11時という忙しい時間帯の連絡を待つのはお客様にとって煩わしく、架電する件数が多い場合工事パートナーにとっても負担が大きいものでした。さらにお客様からコールセンターへの『連絡が来ない』『いつ工事が来るのか』といったお問合せも多く、当社としても問合せ対応にかかるコストが増大していました。
そこで着目したのは、SMSでの連絡です。以前、お取り寄せ品の入荷連絡に関して電話からSMSでの連絡に切り替えた際に、コールセンターへの問合せが減ったという成功事例があり、これを横展開できないかと考えました。今回の開発は連絡の手段としてE-mail、LINE、自社アプリなどの候補もありましたが、携帯電話に標準装備され、ポップアップで通知が出て開封率も高いという理由から、SMS配信を選択しました。」
工事連絡を完全自動化し、人を介さない仕組みを内製開発
このSMS配信の流れと導入について、実際に開発を担ったデジタル戦略部 デジタルソリューション室システム企画ユニット 木村 聡彦氏と、同室ビジネスソリューションユニット 野口 賢人氏に解説していただきました。
「まず、工事パートナーがEDIに入力した訪問予定データをRPAツールが抽出し、データを整えます。あらかじめTwilio Studioで設計・構築したワークフローを経由して、データを配信ツールとなるAPI(Twilio Programmable SMS、Twilio Programmable Voice)と連携します。連携されたデータは、工事当日の朝8時にお客様へSMSで一斉送信される、というシンプルな仕組みです。固定電話のお客様やSMS配信ができない場合は、自動架電し、音声合成によるガイダンスをご案内します。これら一連の流れはすべて自動化され、日々の送信に人の手は一切不要です。
使用しているRPAはもともと業務効率化のために使用した経験があったので、このツールとうまく連携できるAPIを探しました。いくつかの製品を探す中で、グローバル規模での十分な実績、コスト面、開発のしやすさなどの理由でTwilioを選びましたが、この選択は正解でした。
第一に、Twilioは初期費用がかからない従量課金制ですから、コストが明確で、使った分だけ最低限に抑えることができます。そしてトライアルも容易になるため、実際に動くものを作って見せることで、この仕組みでいけるのかどうかという判断が素早くできます。そしてAPI同士も連携しやすく、Studioというコンソール画面を使いUIベースで構築ができるので、難しいコードを書かずともフローが組める点は、内製化開発を目指す私たちにピッタリでした。そして何よりも、担当者のレスが早い!質問を送るとすぐに返信をいただけるので、開発が止まることはありませんでした。現場の要望を積極的に盛り込みながらもわずか2か月という短期間でサービスをスタートさせることができたのは、Twilioの使いやすさと充実したフォロー体制のおかげだと感じています。」
問合せ件数が75%ダウン!工事パートナーの心理的負担も軽減
導入後の効果について、田村氏はこう語ります。
「課題となっていたコールセンターへの問合せは、導入前の6月と導入後の7月の比較で75%ダウンしました。また定性的な効果では、忙しい朝でもスキマ時間にSMSをチェックすればいいので『電話を待つという心理的負担が無いのが良かった』というご意見もいただいております。」
では架電を行っていた工事パートナー側はどう受け止めたのか、工事部門の責任者であるロジスティクスサービス部 村松 隆之氏に伺いました。
「訪問予定時間のEDIへの入力は、もともと2016年からパートナーへ依頼していました。工事を委託する側として、お客様にどの業者が何時頃に伺うのかを把握し、またスケジューリングが適切かどうかをチェックするために使用していましたが、それをそのままの形でRPA連携できたため、工事パートナー側の作業は一切増えていません。むしろ朝の架電業務がなくなったことで、忙しい準備の合間に電話をする手間や、電話が繋がらないことでのストレスから解放されたと好評です。すでに入力件数も20%ほどアップしていますが、今後サービス向上のためにはEDIへの入力を100%に近付けていくことが必要です。前向きに取組んでいただけるよう、工事パートナーの方々にはメリットをアピールしていきたいと思っています。」
ログを通じて見えてきた、改善点を積み重ねる
スピーディなローコードの内製開発でコスト削減と顧客満足度向上、工事パートナーの負担軽減を成し遂げた、まさに『三方良し』と言えるこの取組みですが、今後の改善点や展望について、木村氏にうかがいました。
「ログを確認すると、合成音声で架電した場合に、1秒で通話が終わっているケースが散見されます。これは合成音声=スパム電話というイメージからではないかと予想しているのですが、ECサイトでの購入時に『設置当日SMSか合成音声での連絡が入ります』などの注意書きを表示することで解消できるかもしれません。また、現在自動架電後に繋がらなかった場合は、その後ログを人がチェックして対応しているのですが、再度時間をおいて自動で架電し、その後の対応を判断する仕組み作りができたらと考えています。今後はさまざまなログデータを少しずつ解析し、見えてきた課題に取り組んでいきます。
業態として架電業務は多岐にわたるため、この取組みは部内でも注目を集めており、次はどのケースに展開するか検討を少しずつ始めております。グループ全体でのDXを推進し、いずれはビデオ機能を使ったオンライン接客や、マーケティング分野でもTwilioの技術を活用していければと考えております。」