創業約350年の老舗百貨店が提供する『リモートショッピング』 ニューノーマル時代の新たな購買体験とは
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百貨店でのお買い物体験をデジタルで再現するために
『三越伊勢丹』と言えば、誰もが知る老舗百貨店。前身となる越後屋の創業から約 350年、店頭接客のパイオニアとして日本の小売業を率いてきた同グループだけに、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言で 、臨時休業を余儀なくされたことはかつてないショックとなりました。そんな対面販売が不可能な状況の中 、同社は新たな顧客接点を作るために『三越伊勢丹リモートショッピングアプリ』の開発に着手。プロジェクトの立ち上げからは6か月、開発スタートからはわずか3か月という短期間でリリースし 、大きな反響を呼びました 。当時の状況を、株 式会社三越伊勢丹ホールディングス情報システム統括部の河村明彦氏に伺いました。「緊急事態宣言明けすぐは、一時的な手段としてLINEやZOOMを使ったオンライン 接客サービスを行っていました。この手法でも特定の店舗とお客さまを繋ぐことはで きますが、通常百貨店でのお買い物では、お客さまは店舗の中で複数のショップをご利用されます。こういった百貨店ならではの購買行動をデジタルでも再現するためには、複 数のショップと1 つのアプリでやりとりができ 、また繋がっているショップの一覧が可視化される独自の設計が必要でした。『 三越伊勢丹リモ ートショッピングアプリ 』の特徴は 、チャットからビデオ通話、決済までシームレスにサービスを利用できることです。お客さまはまるで店頭でお買い物をするように、商品選びから店員への質問、購入まで体験することができま す 。強みとする『 人 』の 力を販売に活かせる状態を作 ることは、サービスの構築において非常に重要なポイントでした。」 しかし、そのためには多くの困難があったと同氏は語ります。
「通常店頭では、販売員がお客さまに声をかけるところから接客が始まりますが、アプリではそれができません。また、チャットでの接客は会話の行間が読みづらく、ニーズを把 握するのが難しいこともあり ます 。そして店頭商品をオンライン決済するためには商品の登録作業が発生し 、さらに決済依頼や配送など、さまざまなフローによって販売員側の負担が増えることになります。まだ完全に解決しきれていない部分もありますが、これらの課題を 開発・接客の両面から一つひとつクリアしていきました。」
アプリの要であるコミュニケーション機能にTwilioを採用した理由とは?
販売員とお客様がコミュニケーションをしながらお買い物をするサービスだけに、対話がスムーズにできる仕組み作りは不可欠です。同アプリでは、 チャット機能、ビデオ通話機能、SMSの送信、来店予約サービスでのメール送付といったコミュニケーション機能の根幹にTwilio製品を使用しています。 Twilioを導入した経緯について、株式会社アイムデジタルラボ・取締役の鈴木雄介氏に伺いました。
「まず初めに導入したのはTwilio Convesations AP(I チャット)とTwilio Programmable Video(ビデオ)の2つでした。もともとTwilioの存在は知っており、 グローバルではデファクトスタンダードですので、Twilioは検討段階から有力な選択肢のひとつでした。もちろん他のサービスも検討しましたが、今後SMSやメール送信機能の追加が見えていたこともあり、拡張性の高さからTwilioを導入しました。また、担当しているエンジニアがTwilioを使用した経験があり、スムーズに開発を進められそうだったことも決め手のひとつでした。実際、チャットの実装自体はわずか数週間で完了しています。 この開発において特徴的なのは、スピード感です。現場からのフィードバックをもとに、毎週案件リストを更新し、機能追加・改善 の優先順位を判定しています。三越伊勢丹とアイムデジタルラボの混成プロダクトチームを中心に、双方の役員が参加した場で 毎週意思決定ミーティングを行うことで、週次サイクルでの開発・組織決定・現場調整が進み、驚異的なスピード感でサービスを 改善できる体制を構築しています。 追加機能の開発でTwilioを使った事例のひとつとしては、チャット利用のコンバージョン改善がありました。通常の店頭と違い、 アプリでは店舗側からお客さまに声を掛けることはできません。なかなかお客さまからの発話開始がなく、コンバージョンは低 迷していました。そこでTwilioを使ってお客さまにまず簡単なアンケートを投げかける機能を追加したことで、自然と会話がス タートし、チャットをご利用いただく機会が増えたのです。この機能も3週間程度で実装しており、Twilioを使った機能追加が短 時間でできるメリットは、サービスの改善に寄与していると言えます。」
予想以上の広がりをみせるリモートショッピングアプリの活用法
当初ご来店することができないお客さま向けのサービスとして生まれた同アプリですが、現在のご利用状況はどうなっているのでしょうか? 河村氏に伺いました。 「アプリのご利用を年齢層別にみると、特に20~30代のシェアが約半分と圧倒的に大きく、通常の店頭利用者とは異なる年齢層からもご支持をいただいています。これはECのシェアと比較しても大きいと言えます。また平日も土日もほぼ均等にサービスのご利用があることも、店頭 販売と違った活用方法が広がっている表れのひとつです。来店できない方はもちろんですが、来店前の情報収集としてアプリを使 い、店頭では時間をかけずに効率よくお買い物をする、といったご利用も目立つようになりました。すき間時間でのコミュニケーショ ンにアプリを利用し、その後店頭での購買に繋がっているこの状況は、単純な『デジタルサービス』の枠を超えた新しい接客スタイ ルであると言えます。 チャットのご利用目的としては、イベントに関する問合せや、ECには掲載されていない店頭商品についての問合せが多いのです が、それをきっかけにコミュニケーションが始まり、接客を通じて他の商品のお買い物に繋がることもあります。ビデオ通話では、 外出が難しい小さなお子様がいるご家庭に向けてベビーカーのたたみ方についての動画を送り、アドバイスをするなど、今までに なかった接客の形も生まれています。」
改善を積み重ね展開する次世代のお買い物体験
今後の展望について、鈴木氏はこう語ります。 「今後はAIを活用したテキストマイニングや、自動応答なども検討していきたいと考えています。しかし、リモート接客においては店舗側もお客さま側も不慣れな部分があり、まだまだ改善の余地は多いのが現状です。可能性は未知数で すが、今は一つひとつの改善を積み重ねていきたいです。 店頭での接客、ECに続く新しいチャネルとして世の中にリモート接客がもっと認知され、お買い物の選択肢として広 がっていくことを願っています。」